―コア採取・中性化深さ・塩化物イオン量測定
前回の非破壊検査(レーダ法・電磁誘導法など)は「構造物を傷つけずに調べられる」という大きなメリットがある一方、精度や得られる情報には限界があります。
そこで、最終的な診断の切り札として用いるのが、コンクリートを一部だけ削る・くり抜く「微破壊試験」です。
この記事では、実務でも試験でも最重要となる「コア採取」の厳格なルールと、試験室で行う「化学分析(中性化・塩害・配合推定)」の手順をわかりやすく整理します。
【実務者・受験生の方へ:知識を「得点」に変えるなら】
この記事で解説する「微破壊試験」は、単独で行うものではなく、非破壊検査(一次調査)の結果を受けて行う「最終確認」です。
「どのような手順で調査を組み立て、どのタイミングでコアを抜くべきか」というプロの調査設計プロセスを学びたい方は、以下の実戦ドリルをご活用ください。
▼ 迷わず判定するための「最短ルート設計」 ▼

1. コア採取(Core Sampling)
📝 概要
専用の機械(コアドリル)を用いて、コンクリート構造物から円柱状のサンプル(コア供試体)をくり抜きます。実務では直径 \(\phi 75 \sim 100 \text{mm}\) が一般的です。(規格:JIS A 1107)
🔍 コアで多角的に評価できる項目
たった1本のコアを採取するだけで、以下のような非常に多くの確定的な情報を得ることができます。そのため、コア採取は“診断の王様”とも呼ばれます。
- 圧縮強度・ヤング係数
- 中性化深さ
- 塩化物イオン量(深さ方向の分布=プロファイル)
- 配合推定(昔のコンクリートの材料割合)
- ASR(残存膨張試験、偏光顕微鏡によるゲルの観察など)
📏 採取位置と寸法の絶対ルール
試験で必ず問われるコア採取のタブーとルールです。
- 鉄筋の切断は厳禁: 事前に電磁波レーダや電磁誘導法で「鉄筋探査」を行い、配筋を確実に避けて採取します。
- コア径のルール: 直径は「粗骨材最大寸法の3倍以上」が原則です。(例:最大寸法が20mmの砕石を使っているなら、コア径は60mm以上必要)。
- 【理由】 コア径が小さすぎると、大きな石(骨材)の入り方によって強度が極端にばらついてしまい、部材内部の平均的な性質を評価できなくなるためです。
- 代表性の確保: 部材の端部やコンクリートの打継ぎ目など、局所的に弱い場所は避け、構造物全体を代表できる位置を選びます。
⚠️ 強度試験の補正係数(\(h/d\) 補正)
コンクリートの圧縮強度試験に用いる「標準供試体」は、高さ(\(h\))と直径(\(d\))の比率が \(h/d = 2.0\)(高さが直径の2倍)です。
しかし、現場で採取するコアは、鉄筋や部材厚の制約により、これより短く(太短く)なりがちです(\(h/d < 2.0\))。
コンクリートの円柱は、「太短い(\(h/d\) が小さい)ほど、試験機の圧縮盤による摩擦(拘束)の影響を強く受け、見かけの圧縮強度が高く出る」という性質があります。
したがって、短いコアの強度を標準(\(h/d=2.0\))の強度に正しく換算するためには、1.0未満の補正係数を掛けて「数値を割り引く(減じる)」必要があります。
| h/d (高さ/直径) | 補正係数(目安) | 判定 |
| 2.00 | 1.00 | 補正なし(標準サイズ) |
| 1.50 | 約 0.96 | 少し減じる |
| 1.00 | 約 0.87 | 大きく減じる(重要) |
| 0.50 | 約 0.68 | 誤差が大きすぎるため参考値扱い |
- (注記:係数は規格の版年度により微差があるため、最新のJISを参照してください)
💡 コアの値は「真実」とは限らない?
コア採取は破壊を伴う最終手段ですが、実は「汚染」や「乾燥」によって値が狂う落とし穴がたくさんあります。
Note版の「診断士ドリル-12C(コア採取・室内試験の要点)」では、試験で問われる「コアの取り扱いルール」と「結果のまとめ方」を100文字答案テンプレートで解説しています。
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[👉 診断士ドリル-12C コア採取・室内試験編(Note版)]

2. 中性化深さの測定(フェノールフタレイン法)
現場で採取したコアを割裂(縦割り)し、中性化がどこまで進んでいるかを測ります。(規格:JIS A 1152)
🧪 手順と鉄則
- コアを割裂し、断面の粉じんを清掃する。
- 「直ちに」 1%フェノールフタレインエタノール溶液を噴霧する。
- 変色の境界をノギス等で測定する。
⚠️ なぜ「直ちに」なのか?
割裂した新鮮な断面をそのまま放置すると、空気中の二酸化炭素(\(CO_2\))と反応して、断面の表面そのものが中性化してしまいます。すると、実際の内部の中性化深さよりも深く判定してしまう(誤差が出る)ため、「直ちに(遅滞なく)」噴霧するのが鉄則です。
👀 読み方(判定ルール)
- 赤紫色 = アルカリ性(健全な領域)
- 無色 = 中性化が進んだ領域(鉄筋腐食のリスクあり)
💡フェノールフタレインは pH 8.3~10.0 付近で無色から赤紫色に変色する指示薬です。
つまり、「無色=中性(pH 7.0)」になったわけではなく、「pHが約10を下回り、鉄筋を守る不動態被膜が破壊され得る危険な領域に入った」ことを意味します。
3. 塩化物イオン量の測定(化学分析)
🎯 目的
コンクリート中の塩化物イオン(\(Cl^-\))含有量を評価します。表面だけでなく、深さごとの濃度を測る「プロファイル」を作成するのが基本です。
📊 深さプロファイル
表面から内部に向かって 1~2 cm 厚で輪切り(スライス)にし、各層の塩分量を測定します。
「表層高・内部低(飛来塩分)」か「全層ほぼ均一高(初期混入)」かの診断に有効です。
⚗️ 総量(全塩化物イオン)と水溶性(可溶性)の使い分け
| 名称 | 抽出溶媒 | 意味・用途 |
| 全塩化物イオン (総量) | 硝酸 (煮沸) | ・骨材内部に固着した塩分なども全て溶かし出した総量。 ・JISなどの「規格・仕様の許容値(総量規制)」との比較に用いる。 |
| 水溶性塩化物イオン (可溶性) | 温水 (50℃) | ・水に溶け出し、実際に鉄筋周辺を動き回れる(腐食に関与する)成分。 ・「実際の鉄筋腐食リスク評価」に用いる。 |
💡 単位の使い分け
- 総量の規制値比較には \(kg/m^3\) をよく用います。
- 腐食リスク(塩害の進行度)の評価には、セメント質量に対する割合(\(Cl^-/C, \%\))を用いることがあります。
4. 配合推定(Mix Proportion Analysis)
古い構造物などで設計図書(仕様書)が残っていない場合、採取した硬化コンクリートを化学的に分解し、建設当時の配合(単位セメント量や水セメント比など)を推定する技術です。
⚠️ 原理と限界(弱点)
試料を粉砕・溶解し、カルシウム(\(CaO\))やシリカ(\(SiO_2\))などの量を測定します。セメント特有の成分比率があらかじめ分かっていることを前提に、元のセメント量を逆算します。
【試験の定番トラップ】
コンクリートに「石灰岩砕石」などの石灰質骨材(主成分が炭酸カルシウム $CaCO_3$)が使われている場合、骨材から溶け出したカルシウムと、セメント由来のカルシウムの区別がつかなくなります。
その結果、セメント量を過大評価してしまい、配合推定の誤差が著しく増大(精度が低下)するため、適用には注意が必要です。
- 試料を粉砕・溶解し、\(CaO\)(カルシウム)や \(SiO_2\)(シリカ)などの量を測定。セメント特有の成分比から元のセメント量を逆算します。
- 注意: 石灰岩骨材(主成分 \(CaCO_3\)) 使用時は、骨材由来のカルシウムが混入し、セメント由来と区別できず誤差が増大します。
✅ まとめ(微破壊試験チェックリスト)
試験直前の最終確認用リストです。
- □ コアの径: 粗骨材最大寸法の3倍以上が原則。
- □ 圧縮強度の補正: $h/d$(高さ/直径)が2.0未満の太短いコアは、強度が高く出るため「1.0未満の係数」で補正(減じる)する。
- □ 中性化深さ: 割裂後「直ちに」フェノールフタレインを噴霧。無色はpH約10未満(腐食リスク領域)を意味する。
- □ 塩化物イオン量: 硝酸煮沸=全塩分(総量規制との比較)、温水抽出=水溶性(実際の腐食リスク評価)。
- □ 配合推定: 石灰質骨材(石灰岩など)を使用していると精度が著しく低下する。
📚 確認クイズ(全5問)
Q1. コア径は「粗骨材の最大寸法の3倍以上」が原則である。
👉 ○
(解説:部材内部の平均的性質を反映させ、骨材の入り方によるばらつきを避けるため)
Q2. \(h/d\) が 1.0 の太短いコアほど、見かけの圧縮強度は低く出るため、補正係数は 1.0 より大きくする。
👉 ×
(解説:短いほど拘束の影響で高く出る。標準へ換算するため 1.0 未満の係数(例:約 0.87)で減じる)
Q3. 中性化深さの測定は、断面清掃後に直ちにフェノールフタレイン溶液を噴霧する。
👉 ○
(解説:時間経過で断面自体が空気中の $CO_2$ で中性化してしまうため、遅滞なく行う)
Q4. フェノールフタレインは pH 8.3~10.0 付近で無色から赤紫に変色する指示薬である。
👉 ○
(解説:無色=中性(pH 7)ではなく、pH が約10を切って不動態被膜が壊れる領域に入ることを示す)
Q5. 塩化物イオンの全塩分は硝酸煮沸抽出、水溶性塩分は温水抽出で評価し、目的に応じて単位を使い分ける。
👉 ○
(解説:全塩分は総量規制との比較、水溶性は腐食リスク評価に用いる)
📅 次回予告
現状の「診断(診察)」が終われば、次はいよいよ「対策(治療)」です。
次回は「【診断士-10】補修工法の選定フロー|注入・充填・断面修復の使い分け」を解説します。
- 0.2 mmのひび割れには「注入」か? それとも「表面被覆」か?
- 鉄筋の裏側までハツる「断面修復」の必須条件とは何か?
症状に応じた適切な治療法の選び方を、わかりやすく整理します。
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