前回(診断士-13)で、技術的な原因究明と対策の「基本の型」を学びました。しかし、合格をより確実なものにするため、あるいは問題文に「制約条件」が書かれていた場合に対応するために必要なのが「マネジメントの視点」です。
コンクリート診断士は、ただ壊れた箇所を直せばいいわけではありません。「予算」「環境」「第三者の安全」を総合的に判断し、最適な提案をする力が求められます。
合否を分ける「4つのキラーワード」
答案の中に以下の視点(キーワード)が盛り込まれていると、採点官に「実務を理解している優秀な技術者だ」と高く評価されます。
- ① ライフサイクルコスト(LCC)の最小化 「初期コスト(イニシャルコスト)」だけで判断せず、将来の維持管理費を含めた総額で考える視点です。
- ② 第三者被害の防止(予防保全) コンクリート片の剥落による、歩行者や車両への被害防止を最優先する視点です。
- ③ 環境負荷の低減(サステナビリティ) 「壊して作り直す」のではなく、「直して長く使う(長寿命化)」ことや、廃棄物を減らす視点です。
- ④ アカウンタビリティ(説明責任) 専門家ではない発注者や管理者に対して、リスクやコストを分かりやすく説明し、理解を得る姿勢です。
(記述のレベルアップ例) 単に「断面修復を行う」と書くのではなく、「第三者への剥落被害を未然に防ぐため、早急に浮き部の叩き落としと断面修復を行う」と一言添えるだけで、診断士としての倫理観をアピールできます。
2. 問題文に潜む「制約条件(トレードオフ)」への対応
近年の記述式問題では、状況説明の中に「早期の供用再開が求められている」「予算が限られている」といった条件が隠されていることがあります。 これは、以下のような「板挟み(トレードオフ)」の状況です。
- 「予算」 vs 「品質」: 管理者は安く直したいが、安く済ませるとすぐ再劣化する。
- 「工期」 vs 「環境・騒音」: 早く終わらせたいが、夜間工事は近隣迷惑になる。
- 「安全性」 vs 「利便性」: 今すぐ通行止めにして直すべきだが、交通渋滞が起きる。
これらの板挟み(トレードオフ)に対して、「私は診断士として、こちらを最優先しました(あるいは代替案で両立させました)。その理由は~だからです」と論理的に説得するのが、記述式におけるゴールです。
3.制約条件付き問題の「万能構成テンプレート」
問題文に制約(予算不足など)が設定されている場合は、以下の構成で解答を組み立てます。
- 第1ブロック:現状の課題とジレンマの整理
技術的な問題点(塩害など)と、問題文で指定された制約(予算がない等)が相反している状況を明記する。 - 第2ブロック:診断士としての判断と提案(解決策)
制約下でも「絶対に譲れないもの(第三者の安全など)」を優先しつつ、段階的な対策(応急処置→抜本対策)などを提案する。 - 第3ブロック:提案の根拠(マネジメント視点)
なぜその提案が最適なのかを、LCCや説明責任の観点からまとめる。
4. 【実践】模範解答例(テーマ:予算制約とLCC・第三者被害)
ここでは、「塩害が進行し剥落の危険があるが、発注者は予算不足を理由に安価な表面被覆のみを希望している道路橋(下に市道あり)」という架空の事例に対する解答例を示します。
1.現状の課題と方針
本橋は塩害が進行し、コンクリートの浮き・剥落が発生している。直下には市道があり、第三者被害の防止が最優先課題である。 しかし、発注者は予算制約から安価な表面被覆工法を希望している。内部の塩分を除去せずに表面被覆を行えば、早期に再劣化が生じ、長期的にはライフサイクルコスト(LCC)が増大するため、「予算制約」と「安全性・長寿命化」のトレードオフを解消する提案が必要である。
2.段階的な対策の提案
予算の制約を考慮しつつ、安全性を確保するため、以下の段階的な対策を提案する。
① 応急対策(今年度): 第三者被害を防止するため、直下の市道上空の浮き部を早急に叩き落とす。さらに、剥落防止ネットを設置し、当面の安全を確保する。
② 抜本対策(次年度以降): 予算を確保した上で、塩分を含んだコンクリートをはつり取り、防錆処理を施した上でポリマーセメントモルタル等による断面修復を行う。併せて、再劣化を防ぐために電気防食工法または表面含浸工法の適用を計画する。
3.提案の根拠と診断士としての見解
発注者に対して、安価な工法による短期的な再補修のリスクと、抜本対策によるLCC縮減効果について、比較資料等を用いて分かりやすく説明する。 診断士として、単に技術的な正解を押し付けるのではなく、発注者の予算状況に寄り添いつつ、説明責任(アカウンタビリティ)を果たし、最適な維持管理計画へと導くことが重要である。
まとめ:あなたは「技術者」であり「経営者」であれ
記述式で求められているのは、細かい計算式や化学反応式だけではありません。 「広い視野」と「高い倫理観」です。
- 「安物買いの銭失い」をさせない(LCC視点)
- 「一般市民」を絶対に守る(安全視点)
- 「地球環境」を考える(環境視点)
この3つの正義感を持って解答用紙に向かえば、必ず合格点は取れます。
次回予告: 記述式対策もこれでバッチリです。 次回からは、少し視点を変えて、試験本番で差がつく「最新技術・トレンド用語」を解説します。 「【診断士-15】試験に出る最新技術トレンド|ドローン点検・AI診断・表面含浸材のJIS化」 教科書には載っていないけれど、最近の試験で頻出の「時事ネタ」を仕入れておきましょう。


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