これまでの章で、コンクリートの劣化メカニズム(補修)や、構造的な対策(補強)について学んできました。知識のインプットはこれで十分です。
しかし、診断士試験の記述式問題では、知識があるだけでは合格できません。
「与えられた条件に合わせてベストな工法を選び、それを『技術者として信頼できる言葉』で論理的に説明する力」が求められます。
今回は、次回の「論文の書き方(第12章)」に進む前のミニ演習(シミュレーション)です。
これまで学んだ知識を総動員して、「自分ならどう書くか?」をシミュレーションしてみてください。
この「脳に汗をかくプロセス」を一度挟むだけで、次回の内容の理解度が格段に変わります。
📝 記述式ミニ演習:補強工法の選定
問題文
あなたはコンクリート診断士として、以下の橋梁の調査・対策を任されました。
【対象構造物】
海岸から200mに位置する鉄筋コンクリート造(RC)の橋梁
【調査結果】
- 変状: 主桁の下面に幅0.3mm~0.5mmのひび割れが多数発生。一部で鉄筋腐食によるコンクリートの剥落あり。
- 塩化物イオン濃度: 鉄筋位置で発錆限界値を超えている。
【要求事項(クライアントの要望)】
- 劣化の進行を抑制すること。
- 大型車両の通行増に伴い、主桁の「曲げ耐力」を向上させること。
- 桁下の空間制限があるため、「桁高(けたたか)」を変えないこと。
- 施工時の交通規制を最小限にするため、「短工期・軽量な工法」とすること。
【設問】
この条件における、最も適切と考えられる「補強工法」を1つ選定し、その「選定理由」と「施工上の留意点」を記述せよ。
⏳ シンキングタイム(思考の整理)
すぐに下にスクロールせず、まずは頭の中でロジックを組み立ててみましょう。
今回は「満点回答」を目指して、細かい施工管理のポイントまで想像してみてください。
- 環境は?
- \(\rightarrow\) 海岸200m(塩害)。鋼材は錆びる。「劣化抑制」も必要。
- 目的は?
- \(\rightarrow\) 曲げ耐力アップ。
- 制約は?
- \(\rightarrow\) 桁高不変(コンクリート巻立てNG)、短工期・軽量(クレーン等の重機NG)。
- 施工のツボは?
- \(\rightarrow\) ただシートを貼るだけ? 端っこはどうする? 品質はどう証明する?
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(現場の光景をイメージしてください……自分の言葉で説明できそうですか?)
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\(\downarrow\)
✅ 解答例(模範解答)
これくらい書ければ、文句なしの合格圏内です。
1. 選定工法
炭素繊維シート接着工法(曲げ補強) + 表面保護工(シラン系含浸または保護塗装)
2. 選定理由
本橋は塩害環境下にあり、鋼板接着工法は補強材自体の腐食リスクが高く不利である。また、桁下空間制限により断面増加を伴うコンクリート巻立て工法は困難であり、短工期・軽量の要求から、重機不要で人力施工が可能な炭素繊維シート接着工法が最適である。
さらに、要求事項である「劣化進行の抑制」に応えるため、ひび割れ注入・断面修復による下地処理後に表面保護(含浸材または保護塗装)を併用することで、塩化物イオンの再侵入および接着樹脂の紫外線劣化を防止する。
3. 施工上の留意点
- 下地処理:既設コンクリートの脆弱部や浮きを完全に除去し、健全部を露出させる。ディスクサンダー等で表面の汚れや油分を完全に除去し、接着力を確保する。
- 不陸修正:表面の凹凸や段差をエポキシ樹脂パテ等で平滑にし、シートの浮きや空洞化を防ぐ。
- 隅角部処理:シートの折れ曲がりによる応力集中や切断を防ぐため、桁の角部をグラインダーで半径10mm〜20mm程度のR面取りとする。
- 繊維方向:曲げ耐力向上のため、炭素繊維シートの繊維方向を主桁の軸方向(長手方向)に合わせて貼り付ける。
- 定着・端部処理:シート端部からの剥離を防ぐため、必要に応じてUラップ、端部増し貼り、または機械的アンカーによる定着を行う。
- 品質管理:プライマー・樹脂の塗布量、現場の含水率・温湿度を厳格に管理し、所定の養生時間を確保する。施工後に引張付着試験を行い、所定の接着強度が確保されているか確認する。
- 維持管理:定期点検計画を策定し、目視や打音等によりシートの浮き・剥離の有無や、トップコートの劣化状況を継続的に確認する。
👨🏫 解説:ここが「合否を分ける」ポイント
ただ単に「炭素繊維シート工法を選びます」と答えるだけでは、合格ラインには届きません。上記の解答例には、採点官が高得点をつける「加点キーワード」が散りばめられています。
① 要求事項を「無視」していないか?(複合対策の視点)
問題文に「劣化の進行を抑制すること」とあります。炭素繊維シートは「補強(耐力アップ)」には効きますが、コンクリート内部への塩分浸透を完全に止めることはできません。 そのため、「+表面保護(含浸材など)」を付け加えることで、「お、この受験者は設問の要求を隅々まで読んでいるな」と高く評価されます。
② 「剥がれるリスク」を知っているか?
炭素繊維シート接着工法の最大のリスクは、コンクリートからの「剥離(はがれ)」です。
- R面取り(角を丸める)
- 不陸修正(表面を平らにする)
- 端部処理(端をU字に巻いたりアンカーで止めたりする)
これらは全て「シートを剥がさないための工夫」です。この具体的な記述があるだけで、現場実務能力の証明になります。
③ 品質・維持管理への視点
「シートを貼って終わり」ではありません。
- 「引張付着試験で強度を確認する」
- 「定期点検でトップコートを見る」
こういった「施工後の責任(維持管理)」まで言及できると、論文の説得力と締まりが圧倒的に良くなります。
📅 次回予告:合格する論文の「型」
「評価される要素はわかったけど、これを実際の試験時間内に、ゼロから文章として組み立てるのは大変そう……」
そう思った方も安心してください。実は、合格する論文には決まった「型(テンプレート)」があります。 今回の模範解答も、以下の「5つのブロック」にキーワードを当てはめただけで作られています。
- 前提・環境認識(塩害・劣化状況の整理)
- 目標・制約(耐力アップ・桁高制限・短工期)
- 劣化抑制策(表面保護・封止による根本解決)
- 補強工法の選定(CFRPの選択と理由)
- 施工・品質・維持管理(R面取り・付着試験・定期点検)
次回、この「魔法の5ブロック・テンプレート」を完全公開します。
これさえ頭に入れておけば、どんな問題が来ても、パズルのように言葉を埋めるだけでブレない合格答案が完成します。
『【診断士-12】記述式試験の攻略法①|合格する論文の『型』と『構成テンプレート』
いよいよ本丸への突入です。お楽しみに!
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