コンクリート診断士試験において、最も配点が高く、かつ実務でも避けて通れないのが**「ひび割れ(クラック)の診断」**です。
試験の写真問題を見て、瞬時に原因を特定できるか? そして、記述式で「なぜその原因だと推定したのか」を論理的に説明できるか? 勝負の分かれ目は、**「観察 → 仮説 → 検証」**という論理的な絞り込みの“型”を身につけているかどうかにあります。
この記事では、ひび割れの形状から原因を特定するための思考プロセスと、試験でそのまま使える記述テンプレートを詳しく解説します。
🔎 ひび割れ診断の基本フローチャート
目の前にひび割れがあった時、やみくもに原因を推測してはいけません。以下の3ステップで論理的に思考を展開しましょう。
STEP1|観察(Photo / Field)
まずは客観的な事実を集めます。試験では写真から読み取れる情報をすべて挙げます。
- 🕸️ 形状:網目状(亀甲状)か? 直線状か? 格子状か? スケーリング・ポップアウトはあるか?
- 🧭 方向:主鉄筋に沿っているか? 拘束方向に対して直角か?
- 🧴 付着物:白色ゲル(ASRのサイン)や錆汁(腐食のサイン)、白色析出(遊離石灰)が出ているか?
- 🌍 環境:海岸(塩害)、融雪剤(塩害/凍害)、屋内乾燥(乾燥収縮)、築年数(中性化)、雨掛かりの有無。
STEP2|仮説(原因の絞り込み)
観察結果から、可能性の高い原因を推定します。
- ASR:湿潤環境 + 網目状 + 白色〜半透明ゲル
- 乾燥収縮:乾燥環境 + 材齢初期〜数年 + ゲルなし
- 鉄筋腐食(塩害/中性化):鉄筋沿いの直線 + 錆汁
- 凍害:寒冷地 + ポップアウト + スケーリング
- 疲労(床版):輪荷重位置を中心とした格子状(グリッド状)
STEP3|検証(確定のための試験・測定)
仮説を裏付けるための具体的な調査を提案します。
- 🧪 ASR:コア採取による薄片ペトログラフィー観察(偏光顕微鏡)、SEM-EDSによるゲル同定。
- 🎨 中性化:フェノールフタレイン法(噴霧後すみやかに判定)。
- 🧂 塩害:ドリル削孔粉の深さ方向プロファイル(全塩化物または自由塩化物量)。
- 🔧 腐食状況:自然電位法(半セル電極)、電気抵抗測定、断面減少量の実測。
- 🧊 凍害:スケーリング深さ、ポップアウト密度の評価。
🕸️ パターン1:網目状・亀甲状のひび割れ
ひび割れが不規則に、地図のような模様(マップクラック)を描いている場合、疑うべきは**「内部膨張(ASR)」または「収縮」**です。
A) アルカリシリカ反応(ASR)
- 形状:無拘束部では地図状(マップクラック)になります。
- 注意点:**強い拘束がある部材(柱・梁)では、膨張が拘束されるため、「主鉄筋方向(軸方向)」**にひび割れが走ることがあります。ここが試験の盲点です。
- 特徴:白色〜半透明のゲルの滲出が外観の決定打となります(最終確定は薄片観察)。
B) 乾燥収縮ひび割れ
- 形状:微細で不規則な網目状。
- 環境:屋内や雨掛かりのない屋外など、乾燥環境で発生します。
- 見分け方:ASRと似ていますが、ゲルは伴いません。
📏 パターン2:鉄筋に沿った直線的なひび割れ
C) 塩害(Chloride Induced Corrosion)
- 形状:鉄筋位置をなぞる直線的なひび割れ。しばしば黒褐色〜赤茶色の錆汁を伴います。
- 見極め:外観だけでは中性化と区別が困難です。塩分量プロファイルで鉄筋位置の濃度を確認する必要があります。
出典:ConCom | コンテンツ 現場の失敗と対策 | コンクリート工事 | 塩害を受けた海上コンクリート桟橋上部工の部分的な断面修復箇所の再劣化
D) 中性化(Carbonation)
- 形状:塩害と同じく、鉄筋沿いの直線ひび割れ。
- 見極め:フェノールフタレイン試験を行い、炭酸化域がかぶり厚に達しているか確認します。
- 環境:湿度50~70%の環境で最も進行が速くなります。
🧊 パターン3:その他の特徴的なひび割れ
E) 凍害(Freeze–Thaw)
- 形状:微細なひび割れの集合、スケーリング(層状剥離)、ポップアウト(骨材周囲のクレーター状の欠け)。
- 環境:寒冷地での凍結融解の繰り返し。融雪塩の使用で被害が顕著になります。
F) 疲労(Fatigue / Bridge Deck)
- 形状:進行とともに直交するひび割れが増え、**「格子状(グリッド状)」**に進展します。
- 特徴:輪荷重の軌跡に集中し、ひび割れ面の擦れによる角欠けや**白色析出(遊離石灰)**を伴うことがあります。
✍️ “即答”テンプレート(記述式の骨子)
試験で「原因推定・調査」を問われた際にそのまま使える構成案です。
観察:写真より、主鉄筋に沿った直線ひび割れと、赤茶色の錆汁を確認できる。対象は海岸線から○○m(または融雪剤散布地域)に位置する。
仮説:変状の主原因は、鉄筋腐食(塩害または中性化)と推定。
根拠:直線ひび割れ+錆汁は腐食膨張の典型所見である。ただし、外観のみでは両者の最終判別は不可。
検証:
- 🧪 塩分量測定:ドリル削孔粉の深さプロファイルを作成し、鉄筋位置の濃度を把握。
- 🎨 中性化深さ:フェノールフタレインで炭酸化深さを測定し、かぶり厚と比較。
- 📏 かぶり厚測定:電磁波レーダ等で実測。
方針例:劣化度に応じて、脱塩、断面修復、電気防食等を選定。
🧠 一覧メモ:形状⇔原因対応メモ(試験直前チェック)
| ひび割れパターン | 推定される原因 | 決定的な検証キーワード |
| 網目状 + 白色ゲル | ASR | 薄片観察・SEM・残存膨張試験 |
| 微細網目 + 乾燥環境 | 乾燥収縮 | ゲルなし・目地/養生履歴確認 |
| 直線 + 錆汁(塩分環境) | 塩害 | 塩分プロファイル(鉄筋位置) |
| 直線(古い・乾燥環境) | 中性化 | フェノールフタレイン(かぶり到達) |
| ポップアウト・層状剥離 | 凍害 | 空気量・気泡間隔係数 |
| 床版の格子状ひび割れ | 疲労 | 輪荷重軌跡・白色析出 |
✅ まとめ:写真を見て「即答」できるレベルへ
- ASRの確証レベル:外観(網目+ゲル)はあくまで「高い疑い」です。「確証」には薄片観察、「将来リスク」には残存膨張試験、という使い分けを記述できると加点されます。
- 中性化判定:赤変しない領域の深さが「かぶり厚」を超えている場合、腐食リスクが極めて高いと明言しましょう。
- 塩害判定:「全塩化物」か「自由塩化物」か、どちらの指標で評価したかを明記すると、知識の深さをアピールできます。
📚 おすすめの学習リソース
記事内でも解説しましたが、診断能力を上げるには「多くの変状写真を見る」ことが一番の近道です。 土木学会東北支部公式HPに公開されている以下の資料は、実務者にとって非常に有益ですので、ぜひ参照してください。
🔗 土木技術者のための画像から推定するコンクリート構造物損傷写真集 (土木学会東北支部 コンクリート構造物損傷写真集編集委員会)
📅 次回予告:
ひび割れから原因の「仮説」を立てたら、次はそれを「証明」するための具体的な数値が必要です。 次回は、「【診断士-03】中性化・塩害のメカニズムと調査手法(フェノールフタレイン・塩分量測定)」について解説します。 試験で必ず出る「フェノールフタレインの運用ルール(噴霧後すぐ!)」や「塩分プロファイルの読み取り方」を深掘りしましょう。









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