💡 中性化、塩害に続く重要テーマ、それが「アルカリシリカ反応(ASR)」です。
かつては「コンクリートの癌」と恐れられましたが、現在ではメカニズムが解明され、適切な診断と対策が可能です。
ASRの最大の特徴は、塩分やCO2などの外部要因ではなく、材料そのものの成分が原因となり「内部から膨張して破壊する」点にあります。
この記事では、ASRが発生する「3つの条件」と、診断士として見逃してはならない「ひび割れの方向性」、そして試験で問われる判定フローをわかりやすく解説します。
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1. ASR発生の「3つの条件」
ASRは、次の3要素がすべて揃ったときにのみ発生します。どれか一つでも欠ければASRは起きません(または進行が停滞します)。
- 🪨反応性骨材
- (シリカ鉱物を含む骨材:チャート、オパール、火山ガラス等)
- 🧪高アルカリ
- (コンクリート中のアルカリ総量が高い ※(\(Na_2O_{eq}\)換算)
※セメント由来だけでなく、混和剤・混練水、さらには融雪剤や海塩など「外部からのアルカリ供給」も寄与します。
- (コンクリート中のアルカリ総量が高い ※(\(Na_2O_{eq}\)換算)
- 💧水分の供給
- 雨がかり、地下水、高湿潤環境など
- ※ASRの膨張は「湿潤で加速・乾燥で停滞」する性質があります。
【メカニズム:なぜ膨らむのか?】
① コンクリート中の**アルカリ成分(\(Na^+, K^+\))と骨材中のシリカ(\(SiO2\))**が反応する。
② 骨材周囲に反応リムが形成され、「アルカリシリカゲル」が生成される。
③ ゲルは吸水性が高く、周囲の水分を吸って膨張する(膨張圧の発生)。
④ 膨張圧に耐え切れず、コンクリートを内側から破壊する(ひび割れ発生)。
2. 診断のポイント①:外観変状(見た目)
ASRは外観に強い特徴が現れますが、部材の拘束条件によってひび割れの出方が異なります。 ここが試験で最も狙われるポイントです。
(1) 網目状(亀甲状)のひび割れ
🕸️ 無筋コンクリートや、拘束の弱いスラブ・擁壁などで見られる、地図状の不規則なひび割れ(マップクラック)です。これが最も典型的なASRの症状です。
(2) 軸方向のひび割れ(拘束が強い場合)【試験頻出!】
柱・梁など、主鉄筋やPC鋼材で強く拘束されている部材では、膨張が鉄筋によって抑え込まれます。
その結果、膨張圧は鉄筋と直角方向には進めず、「主鉄筋と同じ方向(軸方向)」に逃げるようにひび割れが生じます。
📝 現場のリアル(PC部材の場合) PC桁やPC柱などのプレストレストコンクリート部材では、導入されたプレストレス方向に沿ったひび割れが卓越しますが、定着部(端部)付近では応力状態が複雑なため、放射状や斜め方向のひび割れが混在することがあります。
(3) ゲルの滲出
⚪ ひび割れから粘性のある物質(アルカリシリカゲル)が滲出している場合、ASRの疑いが強まります。
- 湿潤時:半透明〜淡黄色で、ゼリー状の粘性がある。コンクリート表面が黒ずんで見える(濡れ色)こともある。
- 乾燥時:白く固化する。
🔍 白華(エフロレッセンス)との違い
白華は主にカルシウム成分で、粘性がなくパサパサしています。確実な鑑別には、後述する「偏光顕微鏡」での観察(ゲル充填・反応リムの確認)が決め手となります。
3. 診断のポイント②:詳細調査と試験
見た目で疑いを持ったら、科学的裏付けで確度を高めます。以下のフローで判定します。
📊 ASR 簡易判定フロー
| ステップ | アクション |
| [スタート] 外観チェック | ・網目状(拘束弱)/軸方向(拘束強) ・ゲル滲出、ポップアウト、コンクリートの変形 ※錆汁がある場合は「塩害」との併発を疑う |
| 環境履歴の確認 | ・水の供給源(雨、地下水) ・外部アルカリ(融雪剤、飛来塩分) |
| 成分・鉱物診断(確定診断) | 🔎酢酸ウラニル法(蛍光法) : 新鮮破面に試薬を塗布しUV照射→ゲルが黄緑色に発光。 (※⚠️放射性物質を含むため試薬管理が必要) 🔬薄片偏光顕微鏡観察 : 反応性骨材、反応リム、ゲル充填を目視確認。 これが最も確実な証拠(確定診断)となる。 |
| 進行性評価 | 🌡️促進膨張試験(JCI-DD2法など) : コアを採取し、高温高湿(40℃・RH100%)で促進。 一定期間の「長さ変化(伸び率・増分)」を確認する。 |
| [ゴール] 対策選定 | ・伸びる → 進行性あり(水を止める対策へ) ・伸びない → 終息(ひび割れ補修・表面化粧へ) |
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4. ASRの対策(リハビリテーション)と新設時の抑制
診断士としては、「進行性の有無」と「複合劣化のリスク」を考慮して処方箋を書きます。
ケース①:📈進行性がある場合(まだ膨らむ)
原則は、ASR発生の3条件のうち「水」を断つことです。
- 表面被覆工法:防水性の高い材料で外部からの水を遮断します。
- 表面含浸工法:シラン系含浸材などで内部を撥水化し、吸水を抑制します。
- 排水改善:水切り設置や滞水解消など、環境そのものを改善します。
- (参考)化学的抑制:リチウム塩(亜硝酸リチウム等)の圧入や含浸により、ゲルを非膨張化させる技術もあります(海外で実績多、国内でも適用例あり)。
⚠️ 複合劣化への注意
塩害や中性化を併発している場合、単に水を止めるだけでなく、防錆対策(断面修復や防錆剤注入)をセットで行う必要があります。
ケース②:🛑進行性がない場合(終息)
- ひび割れ注入・充填:鉄筋腐食防止(中性化・塩害抑制)のため、ひび割れを塞ぎます。
- 表面化粧:美観の回復を行います。
🏗️【知識】新設時の抑制対策(試験頻出)
新設構造物におけるASR抑制対策として、以下のいずれかを実施することが規定されています。
| 対策項目 | 内容 |
| 無害な骨材を使用する | アルカリシリカ反応性試験(モルタルバー法等)で「無害」を確認する。 骨材の産地ばらつき(ロット管理)にも注意。 |
| アルカリ総量の抑制 | コンクリート中のアルカリ総量(\(Na_2O_{eq}\))を 3.0 kg/m³以下とする。 |
| 混合セメントの使用 | 高炉セメント(B・C種)やフライアッシュセメント(B・C種)を使用する。 ポゾラン反応による組織の緻密化、アルカリの希釈・固定化効果により、強力な抑制効果を発揮する。 |
☕️ 【コラム】診断士の休憩室|難解な記号を「イメージ」で攻略!
コンクリート診断士試験には、化学記号や単位がたくさん出てきます。「苦手だな…」と感じる方も多いはず。
ここでは、ASRに関連する2つのキーワードを、身近なイメージで翻訳してみましょう。
① \(Na_2O_{eq}\)(ナトリウム換算値)は「通貨両替」だ!
ASRの原因となるアルカリ金属には、主に「ナトリウム(Na)」と「カリウム(K)」の2種類があります。
試験では「アルカリ総量 3.0 kg/m³ 以下ならOK」という基準が出ますが、種類の違う2つをどうやって合計するのでしょうか?
ここで「通貨」をイメージしてください。
- ナトリウム(Na) = 「日本円」 💴
- カリウム(K) = 「米ドル」 💵
「財布に合計いくら入ってる?」と聞かれたら、ドルを円に換算しますよね。
このときの為替レートにあたるのが「0.658」という係数です。
$$Na_2O_{eq} = Na_2O + (0.658 \times K_2O)$$
(円 = 円 + 0.658 × ドル)
カリウム(ドル)に0.658を掛けて、ナトリウム(円)の価値に合わせてから合計する。これが「換算(equivalent)」の正体です。
② RH(相対湿度)100%は「ミストサウナ」だ!
促進膨張試験(JCI-DD2法)の条件にある「40℃・RH100%」。
RH(Relative Humidity)とは相対湿度のこと。では100%とはどんな状態でしょうか?
これは「ミストサウナ」や「濃い霧の中」と同じです。💧
空気中の水分が限界まで満タンで、これ以上水を含めない飽和状態。コンクリートを絶対に乾燥させず、常に水分を供給し続ける「ASRにとっての天国(最悪の環境)」を作り出しているのです。
5. まとめ:ASR診断のチェックリスト
- ✅ ひび割れ形状:無拘束なら網目状、拘束時(鉄筋・PC鋼材)は軸方向。
- ✅ 付着物:白色〜半透明ゲル(湿潤時は変色・粘性あり)。白華と見誤らない。
- ✅ 発生環境:水掛かり(雨、地下水)、外部アルカリ供給(融雪剤・海塩)。
- ✅ 確定診断:薄片観察(偏光顕微鏡)による反応リム・ゲルの確認。
- ✅ 進行性評価:促進膨張試験での「伸び増分」確認。
- ✅ 対策の鉄則:進行性ありなら「水分の遮断(止水・防水)」が最優先。
📢 次回予告:
ひび割れ・中性化・塩害・ASRに続き、次は寒冷地の天敵です。
「【診断士-05】凍害のメカニズムとポップアウト|空気量と気泡間隔係数の秘密」を解説します。
なぜコンクリートの中に「空気」が入っていると凍害を防げるのか? そのメカニズムと基準値の謎に迫ります。
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