中性化や塩害が化学的な劣化であるのに対し、凍害は水の凍結膨張によって組織が破壊される**「物理的な劣化」**です。
「寒い地方だけの話でしょ?」と侮ってはいけません。最低気温がそれほど低くなくても、凍結・融解の繰返しが多い環境(山間部、日較差が大きい地域、高飽水、融雪剤散布など)では、西日本を含め全国で発生します。
本稿では、凍害特有の**「スケーリング」「ポップアウト」の見極め方、コンクリートを凍害から守る「連行空気(AE)」のメカニズム、そして合否を分ける「気泡間隔係数」**を整理します。
🎯 この記事の到達目標
- 凍害の破壊メカニズム(約9%膨張と繰返し作用)を説明できる。
- 外観変状(スケーリング、ポップアウト)を写真で識別できる。
- 空気量と気泡間隔係数の違いを説明し、200µmの基準を暗記する。
- JIS A 1148の評価指標(相対動弾性係数RDM)と合否目安を示せる。
- 一次予防(AE、W/C低減、初期凍害防止)と補修方針を提示できる。
1. 凍害のメカニズム(水は凍ると約9%膨張)
💥 破壊の流れ
- 細孔中の水が凍結すると、体積が約9%膨張する。
- 膨張により未凍結の水が周囲へ押し出され、細孔内で高い水圧・氷圧が上昇する。
- その圧力がコンクリートの引張強度を超えると、微細ひび割れが発生する。
- 昼の融解・夜の凍結という**「凍結融解の繰返し」**により、疲労のように劣化が進行する。
⚠️ 危険な条件:高飽水状態
- 飽水度が高いほど「逃げ場」がなく、圧力が上がりやすくなります。
- 臨界飽水度の目安は約91.7%(氷の密度0.917に由来)。
- ※ただし、現場では細孔分布や水分移動の影響でこれ未満でも劣化しうるため、安全側の評価が重要です。
2. 診断のポイント:独特の外観変状
凍害には、他の劣化原因とは異なる特徴的な「見た目」があります。
(1) スケーリング(Scaling)
- 特徴:表面のペースト部分が薄い鱗(うろこ)状に剥離する現象。進行すると粗骨材が露出します。
- 要因:融雪剤(塩化カルシウム等)が撒かれる環境で顕著。凍結融解に加え、塩類による化学的浸食・溶脱の相乗効果で加速します。
(2) ポップアウト(Pop-out)
- 特徴:表面の一点が円錐状に弾け飛び、クレーター状の欠損が生じる現象。
- 要因:軟石、チャート、泥岩など、吸水率の高い多孔質骨材そのものが凍結膨張し、周囲のペーストを破壊することで生じます。
(3) 微細ひび割れ
- 特徴:地図状、あるいは表面に平行な細かいひび割れが分布します。
- ASRとの鑑別:ASRはゲルが特徴。凍害はゲルを伴わず、**「スケーリング」や「ポップアウト」**を併発しているかどうかが鑑別の鍵となります。
📸 写真で確認(画像検索リンク)
📸 鑑別のための参照画像(ASRとの違い)
👉・🔗ASR 地図状ひび割れ ゲル(鑑別用)
3. 凍害を救う「連行空気(AE)」の役割
凍害対策の切り札が、AE剤によって作られる**「エントレインド・エア(連行空気)」**です。
- 役割(クッション):独立した微細な気泡が、凍結膨張圧の「逃げ場」となります。
- メカニズム:膨張で増えた水が気泡内に移動し、組織への圧力を緩和します。
📝 試験に出る数値:空気量
- 標準:4.5%(許容差 ±1.5%)
- 寒冷地・高耐久:5.0〜6.0% とする場合があります。
- 気泡サイズ:概ね 10〜300 \(\mu m\) の微細気泡。
- 注意点:空気量が1%増えると、圧縮強度は約5%低下します(強度と耐久性のトレードオフ)。
4. 合否を分ける「気泡間隔係数」
ここが診断士試験の最重要ポイントです。
空気は「量」だけでは不十分で、**「配置(距離)」**が重要です。
📏 気泡間隔係数(Spacing Factor)とは?
- 定義:硬化コンクリート中の任意点から、「最も近い気泡」までの距離の代表値(ASTM C457に基づく統計値)。
- 意味:凍結時に水が気泡(避難所)へ到達するための「移動距離」の指標。
☕️ 【コラム】「避難所までの距離」でイメージしよう!
- 空気量(量) = 街にある避難所の「数」
- 気泡間隔係数(距離) = 家から避難所までの「距離」
「どこに住んでいても、200m(200\(\mu m\))以内に避難所(気泡)がある状態」が理想的なAEコンクリートです。
5. 凍害の評価と試験方法(JIS A 1148)
A法:水中凍結・水中融解
コンクリート供試体を凍結・融解サイクルに曝し、劣化の進行を測定します。
- 評価指標:相対動弾性係数(RDM)
- 健全時を100%とし、ひび割れ等で組織が緩むと数値が低下します。
- 終了条件(運用目安):
- 300サイクル 完了
- RDMが 60% に低下した時点
- ※著しい低下が見られた場合は途中で打ち切ることが可能です。
- 合否の目安:300サイクル後に RDM ≧ 60% で「耐久性あり(合格相当)」とみなされます。
6. 凍害の対策(補修と一次予防)
🔧 補修・改修(診断後)
- 水の侵入遮断:これが最優先。表面被覆工法、表面含浸工法(シラン系等)で外部からの給水を断ちます。
- 断面修復:スケーリングで脆くなった表層を除去し、耐凍害性材料(AE剤入りポリマーセメントモルタル等)で再生します。
🏗️ 設計・施工(一次予防)
- 水セメント比(W/C)低減:組織を緻密にして水を入りにくくする。
- AE剤の適切使用:所要空気量と、良好な気泡間隔係数を確保する。
- 初期凍害防止:打設直後〜初期硬化まで十分な保温養生を行う。
📚 暗記カード(要点10選)
試験直前にこのリストだけは見直しましょう。
- 凍害 = 物理的劣化(凍結膨張と繰返し作用)
- 氷の膨張:約9%
- 危険条件:高飽水、融雪剤、日較差大
- スケーリング:鱗状剥離 → 骨材露出
- ポップアウト:円錐状欠損(多孔質骨材起因)
- ASR鑑別:凍害はゲルなし/スケーリング併発が鍵
- AEの役割:気泡が膨張圧の逃げ場となる
- 空気量標準:4.5%(±1.5%)/寒冷地5〜6%
- 気泡間隔係数:200µm以下(小さいほど良い)
- JIS A 1148:RDM ≧ 60% @ 300サイクル が合格目安
🎓 演習問題(応用)
設問
寒冷地の道路橋床版コンクリートで、冬季に融雪剤を散布。表面に鱗状剥離が進行し粗骨材が露出、部分的に円錐状欠損が見られる。AEコンクリートだが、空気量は4.0%、W/C=60%。対策方針を述べよ(短答)。
⬇︎⬇︎⬇︎ 解答例を表示
解答例(要点)
- 診断:スケーリング+ポップアウトより凍害と判定。融雪剤環境で進行が促進されている。
- 原因推定:W/Cが高めで緻密性不足、かつ空気量(4.0%)が寒冷地としては不足気味である可能性が高い。気泡間隔係数の不良も疑われる。
- 補修:表面被覆またはシラン系含浸で給水を遮断。劣化表層を除去し、耐凍害性材料で断面修復を行う。
- 一次予防:設計段階でW/Cを低減し、所要空気量(寒冷地5〜6%)と気泡間隔係数200µm以下の確保、および初期凍害防止の保温養生を徹底する。
✅ まとめ:チェックリスト
- 特徴的変状:スケーリング、ポップアウト、微細ひび割れ
- 発生要因:凍結膨張(約9%)+凍結融解の繰返し
- 対策の切り札:AEによる連行空気(気泡の逃げ場)
- 重要数値①:空気量4.5%(寒冷地5〜6%)
- 重要数値②:気泡間隔係数 200µm以下
- 評価試験:JIS A 1148(RDM≧60% @ 300サイクル)
- リスク環境:高飽水、融雪剤散布、日較差大
📢 次回予告:
次回は、**「【診断士-06】疲労・化学的腐食・火害の診断ポイント」**です。
道路橋床版の疲労メカニズム、火害を受けたコンクリートの受熱温度推定(ピンク色は何度?)など、試験で差がつく応用テーマを一気に整理します。

