コンクリート診断士試験において、劣化原因の二大巨頭といえば**「中性化」と「塩害」**です。
両者は発生メカニズムこそ異なりますが、最終的なゴール(バッドエンド)は同じ、すなわち**「鉄筋の腐食(錆)」**です。 最新の「コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針2022(JCI)」においても、これらは「進行性の劣化(評価Ⅱ)」に分類され、適切な調査と将来予測が必須とされています 。
本稿では、診断士として必須の「調査方法(JIS基準)」と、寿命予測に用いる計算式「\(\sqrt{t}\)則」を、最新の指針に基づいて解説します。
1. 中性化(Carbonation)のメカニズムと調査
📉メカニズム:アルカリ性の喪失
健全なコンクリートは水酸化カルシウム\(Ca(OH)_2\) を多く含み、pH12〜13の強アルカリ性を示します。このアルカリ性により鉄筋表面に「不動態皮膜」が形成され、腐食が抑制されています。
ところが、空気中の二酸化炭素 (\(CO_2\)) が侵入すると次式の反応により炭酸カルシウムが生成され、アルカリ性が低下します。
$$Ca(OH)_2 + CO_2 \rightarrow CaCO_3 + H_2O$$
一般に、pHが概ね11〜11.5を下回ると不動態皮膜が破壊され、そこに水と酸素が供給されると腐食が始まります。
🔍調査方法:フェノールフタレイン法
中性化深さ(どこまで中性化が進んでいるか)の測定には、フェノールフタレイン溶液(JIS A 1152)を用います。
- 断面確保:コア採取またははつりにより、新鮮な断面を露出させる。
- 注意:切断面の過度な水洗いや乾燥は避ける。
- 噴霧:断面作成後、「直ちに」 1%フェノールフタレイン溶液を噴霧する。
- 試験ポイント:放置すると空気中の\(CO_2\)で表面が中性化し、誤差の原因となります。
- 判定:噴霧後の呈色状況を測定する(ノギス等で測定し、平均値を求める)。
2. 中性化の進行予測(\(\sqrt{t}\)則)
中性化深さは、拡散支配の段階で「時間の平方根」に比例する経験式で表されます。
📐基本式:
$$y = b \sqrt{t}$$
- \(y\):中性化深さ(\(mm\))
- \(t\):経過年数(年)
- \(b\):中性化速度係数(環境、セメント種、水セメント比、養生、表面仕上げ等で決まる)
📝 計算問題の解き方(例題)
【問】築16年の建物で中性化深さが20mmと測定された。この速度が一定と仮定すると、築64年時点の中性化深さはいくらか。
1. 手順①:係数 \(b\) を求める 現状のデータ(16年で20mm)を代入します。
$$20 = b \sqrt{16}$$
$$20 = b \times 4 \quad \rightarrow \quad b = 5$$
2. 手順②:未来を予測する 求めた \(b=5\) と、未来の年数(64年)を代入します。
$$y = 5 \sqrt{64}$$
$$y = 5 \times 8 = 40$$
答え:40mm
留意: 初期養生不足、ひび割れの顕在化、相対湿度の急変、仕上げの違い等があると \(\sqrt{t}\)則から外れる場合があります。
3. 塩害(Chloride Attack)のメカニズムと調査
🧂メカニズム:塩化物イオンによる不動態皮膜の破壊
塩害の最大の特徴は、「中性化していなくても(高pHのままでも)錆びる」という点です。
コンクリート中に浸透した塩化物イオン\(Cl^-\)が鉄筋の不動態皮膜を直接破壊します。
- 飛来塩分:海からの潮風や、凍結防止剤により表面から浸透するもの(外部からの供給)。
- 内在塩分:海砂の使用などにより、建設当初から内部に含まれるもの。
⚠️腐食発生の閾値の目安
- 発錆限界濃度(硬化コンクリート中の総塩化物イオン量):\(1.2\text{kg/m}^3\)(一般的な目安)
※条件により1.0〜2.5 kg/m³程度まで幅があります。JCI指針では「総塩化物イオン量」を基準としますが、土木学会等では「塩化物イオン濃度」を用いる場合もあります。
試験問題の前提条件に従ってください。
🔍調査方法:塩分量プロファイル
表面だけ測っても意味がありません。**「深さごとの濃度分布(プロファイル)」**を取得します。
- サンプリング:ドリル削孔粉を深さごとに採取、またはコアを切断してすり潰す。
- 分析:硝酸銀滴定法、イオン電極法などで濃度を測定。
- 評価:グラフを作成し、**「鉄筋位置(かぶり深さ)」**での濃度が閾値(標準値\(1.2\text{kg/m}^3\))を超えているかを確認する。
(参考)拡散モデルのイメージ:
半無限体の表面濃度 \(C_s\)、初期濃度 \(C_0\)、拡散係数 \(D\)、深さ \(x\)、時間 \(t\) とすると、
$$C(x,t) = C_0 + (C_s – C_0) \left( 1 – \text{erf} \left( \frac{x}{2\sqrt{Dt}} \right) \right)$$
鉄筋かぶり \(c\) での濃度が閾値 \(C_{\text{crit}}\)(例:\(1.2 , \text{kg/m}^3\))に到達すると腐食開始:
$$C(c,t) \ge C_{\text{crit}}$$
試験では式の厳密解よりも、濃度プロファイルのグラフから**「かぶり位置の濃度が閾値を超える時期」**を読み取る力が問われます。
🧪 【補足コラム】鉄はどうして錆びる?(腐食の電池作用)
鉄筋の腐食は、実は**「電池(電気化学反応)」**と同じ仕組みで進みます。 コンクリート内部で、鉄筋が「アノード」と「カソード」という2つの極になり、電流が流れることで錆が発生します。
- アノード(陽極):鉄が電子を放出して溶け出す場所(ここで錆びる)。
$$Fe \rightarrow Fe^{2+} + 2e^-$$ - カソード(陰極):放出された電子を、酸素と水が受け取る場所。(酸素・水が関与)
$$O_2 + 2H_2O + 4e^- \rightarrow 4OH^-$$
💡 診断士の視点 この「電子のやり取り」を強制的に止めるのが**「電気防食工法」**です。 また、コンクリートが乾燥していると錆びないのは、電流を流すための「水(電解質)」がないため、回路が成立しないからです。
5. まとめ(中性化と塩害の要点整理)
要点を一覧表に表にまとめました。
| 項目 | 中性化 | 塩害 |
| 主原因 | \(CO_2\)(二酸化炭素) | \(Cl^-\)(塩化物イオン) |
| 腐食メカニズム | \(pH\) 低下による皮膜喪失(概ね\(pH\) 11以下で危険) | イオンによる皮膜直接破壊(高\(pH\)でも、危険) |
| 調査方法 | フェノールフタレイン法 (直ちに噴霧・赤色は健全) | 塩分量プロファイル (鉄筋位置の濃度を確認) |
| 進行予測 | \(\sqrt{t}\)則 (\(y = b \sqrt{t}\)) | 拡散方程式(Fickの法則) (プロファイルから図読取り) |
| 危険ライン | 残りかぶり 10mm以下 (中性化ぜんが鉄筋に迫る) | 1.2 \(\text{kg/m}^3\)以上 (鉄筋位置での濃度) |
📝【力試し】理解度確認クイズ
記事の内容を理解できたか、3つのクイズでチェックしてみましょう!
Q1. フェノールフタレイン溶液を噴霧した際、健全(アルカリ性)な部分はコンクリートは何色になりますか? A. 無色 B. 赤紫色 C. 黄色
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正解:B. 赤紫色 ここが試験で最も勘違いしやすいポイントです! 「赤=危険」ではなく、**「赤=アルカリ性(元気)」**です。無色の部分は中性化しており、不動態皮膜が破壊されるリスクがある領域です。
Q2. 中性化の進行予測(\(\sqrt{t}\)則)において、経過時間が「4倍」になると、中性化深さは何倍になると予測されますか? A. 2倍 B. 4倍 C. 16倍
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正解:A. 2倍 中性化深さは時間の平方根(ルート)に比例します。 時間が4倍になると、深さは \(\sqrt{4} = 2\)倍になります。同様に、時間が9倍になれば、深さは3倍になります。
Q3. 一般的なコンクリートにおいて、鉄筋腐食が始まるとされる塩化物イオン量の目安(発錆限界濃度)はどれくらいですか? A. (0.3 , \(\text{kg/m}^3\) B. \(1.2 , \text{kg/m}^3\) C. \(2.5 , \text{kg/m}^3\)
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正解:B. \(1.2 \text{kg/m}^3\)
この数値は暗記必須です。なお、 \(0.3 \text{kg/m}^3\) は新設時の規制値(JIS)としてよく出てくる数値ですので、混同しないようにしましょう。
📅次回予告
次回は、コンクリートの「癌」とも呼ばれる厄介な劣化現象、**「【診断士-04】アルカリシリカ反応(ASR)のメカニズムと判定方法」**について解説します。なぜ骨材が膨張するのか? 試験で頻出の「3つの条件」と、JCI指針で定義された「水掛かり」との関係を整理します。


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