【診断士-04】アルカリシリカ反応(ASR)のメカニズムと診断|「3つの条件」と判定フローを完全図解

【第Ⅱ部】コンクリート診断士

💡 中性化、塩害に続く重要テーマ、それが「アルカリシリカ反応(ASR)」です。
かつては「コンクリートの癌」と恐れられましたが、現在ではメカニズムが解明され、適切な診断と対策が可能です。

ASRの最大の特徴は、塩分やCO2などの外部要因ではなく、材料そのものの成分が原因となり「内部から膨張して破壊する」点にあります。
本稿では、ASRが発生する「3つの条件」と、診断士として見逃してはならない「ひび割れの方向性」を解説します。


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1. ASR発生の「3つの条件」

ASRは、次の3要素がすべて揃ったときにのみ発生します。どれか一つでも欠ければASRは起きません(または進行が止まります)。

  1. 反応性骨材 🪨
    • (シリカ鉱物を含む骨材:チャート、オパール、火山ガラス等)
  2. 高アルカリ 🧪
    • (コンクリート中のアルカリ総量が高い ※(\(Na_2O_{eq}\)換算)
      ※セメント由来だけでなく、混和剤・混練水、さらには融雪剤や海塩など「外部からのアルカリ供給」も寄与します。
  3. 水分の供給 💧
    • 雨がかり、地下水、高湿潤環境など
    • ASRの膨張は「湿潤で加速・乾燥で停滞」する性質があります。

【メカニズム:なぜ膨らむのか?】

① コンクリート中の**アルカリ成分(\(Na^+, K^+\))と骨材中のシリカ(\(SiO2\))**が反応。
② 骨材周囲に反応リムが形成され、「アルカリシリカゲル」が生成される。
③ ゲルは吸水性が高く、周囲の水分を吸って膨張する(膨張圧の発生)。
④ 膨張圧に耐え切れず、コンクリートを内側から破壊する。


2. 診断のポイント①:外観変状(見た目)

ASRは外観に強い特徴が現れますが、部材の拘束条件によってひび割れの出方が異なります。

(1) 網目状(亀甲状)のひび割れ

🕸️ 無筋コンクリートや、拘束の弱いスラブ・擁壁などで見られる、地図状の不規則なひび割れ(マップクラック)です。これが最も典型的なASRの症状です。

(2) 軸方向のひび割れ(拘束が強い場合)

【試験頻出の鑑別点!】 柱・梁など、主鉄筋やPC鋼材で強く拘束されている部材では、膨張が鉄筋によって抑え込まれます。 その結果、膨張圧は鉄筋と直角方向には進めず、**「主鉄筋と同じ方向(軸方向)」**に逃げるようにひび割れが生じます。

📝 現場のリアル(PC部材の場合) PC桁やPC柱などのプレストレストコンクリート部材では、導入されたプレストレス方向に沿ったひび割れが卓越しますが、定着部(端部)付近では応力状態が複雑なため、放射状や斜め方向のひび割れが混在することがあります。

📝 試験対策:ひび割れ方向と鑑別

●拘束なし → 網目状 ひび割れ
●拘束あり(鉄筋・PC鋼材) → 鉄筋に沿った軸方向ひび割れ

【塩害との鑑別】
塩害も鉄筋沿いにひび割れますが、「錆汁(茶色の汚れ)」を伴います。ASRでは「白色〜半透明のゲル」や「湿潤時の変色」が手がかり。
※ASRと塩害が併発する場合もあります。

(3) ゲルの滲出

⚪ ひび割れから**粘性のある物質(アルカリシリカゲル)**が滲出している場合、ASRの疑いが強まります。

  • 湿潤時:半透明〜淡黄色で、ゼリー状の粘性がある。コンクリート表面が黒ずんで見える(濡れ色)こともある。
  • 乾燥時:白く固化する。

🔍 白華(エフロレッセンス)との違い 白華は主にカルシウム成分で、粘性がなくパサパサしています。確実な鑑別には、後述する**「偏光顕微鏡」**での観察(ゲル充填・反応リムの確認)が決め手となります。


3. 診断のポイント②:詳細調査と試験

見た目で疑いを持ったら、科学的裏付けで確度を高めます。以下のフローで判定します。

📊 ASR 簡易判定フロー

ステップアクション
[スタート] 外観チェック・網目状(拘束弱)/軸方向(拘束強)
・ゲル滲出、ポップアウト、コンクリートの変形
※錆汁がある場合は**「塩害」**との併発を疑う
環境履歴の確認・水の供給源(雨、地下水)
・外部アルカリ(融雪剤、飛来塩分)
成分・鉱物診断(確定診断)酢酸ウラニル法(蛍光法) 🔎:
新鮮破面に試薬を塗布しUV照射→ゲルが黄緑色に発光。
(※⚠️放射性物質を含むため試薬管理が必要)

薄片偏光顕微鏡観察 🔬:
反応性骨材、反応リム、ゲル充填を目視確認。
これが最も確実な証拠となる。
進行性評価促進膨張試験(JCI-DD2法) 🌡️:
コアを採取し、高温高湿(40℃・RH100%)で促進。
一定期間の「長さ変化(伸び率・増分)」を確認。
[ゴール] 対策選定・伸びる → 進行性あり(水を止める対策へ)
・伸びない → 終息(ひび割れ補修・表面化粧へ)

4. ASRの対策(リハビリテーション)

診断士としては、進行性の有無と複合劣化のリスクを考慮して処方箋を書きます。

ケース①:📈進行性がある場合(まだ膨らむ)

原則は、3条件のうち**「水」を断つ**ことです。

  • 表面被覆工法:防水性の高い材料で外部からの水を遮断します。
  • 表面含浸工法:シラン系含浸材などで内部を撥水化し、吸水を抑制します。
  • 排水改善:水切り設置や滞水解消など、環境そのものを改善します。
  • 化学的抑制(知識):リチウム塩(亜硝酸リチウム等)の圧入や含浸により、ゲルを非膨張化させる技術もあります(海外で実績多)。

⚠️ 複合劣化への注意 塩害や中性化を併発している場合、単に水を止めるだけでなく、**防錆対策(断面修復や防錆剤注入)**をセットで行う必要があります。

ケース②:🛑進行性がない場合(終息)

  • ひび割れ注入・充填:鉄筋腐食防止(中性化・塩害抑制)のため、ひび割れを塞ぎます。
  • 表面化粧:美観の回復を行います。

🏗️【知識】新設時の抑制対策(試験頻出)

対策項目内容
無害な骨材を使用するアルカリシリカ反応性試験(モルタルバー法等)で「無害」を確認。
骨材の産地ばらつき(ロット管理)にも注意。
アルカリ総量の抑制コンクリート中のアルカリ総量(\(Na_2O_{eq}\))を
3.0 kg/m³以下とする。
混合セメントの使用**高炉セメント(B・C種)フライアッシュセメント(B・C種)**を使用する。
ポゾラン反応による組織の緻密化、アルカリの希釈・固定化効果により、強力な抑制効果を発揮します。

    ☕️ 【コラム】診断士の休憩室|難解な記号を「イメージ」で攻略!

    コンクリート診断士試験には、化学記号や単位がたくさん出てきます。「苦手だな…」と感じる方も多いはず。

    ここでは、ASRに関連する2つのキーワードを、身近なイメージで翻訳してみましょう。

    ① \(Na_2O_{eq}\)(ナトリウム換算値)は「通貨両替」だ!

    ASRの原因となるアルカリ金属には、主に「ナトリウム(Na)」と「カリウム(K)」の2種類があります。

    試験では**「アルカリ総量 3.0 kg/m³ 以下ならOK」**という基準が出ますが、種類の違う2つをどうやって合計するのでしょうか?

    ここで**「通貨」**をイメージしてください。

    • ナトリウム(Na)「日本円」 💴
    • カリウム(K)「米ドル」 💵

    「財布に合計いくら入ってる?」と聞かれたら、ドルを円に換算しますよね。

    このときの為替レートにあたるのが「0.658」という係数です。

    $$Na_2O_{eq} = Na_2O + (0.658 \times K_2O)$$

    (円 = 円 + 0.658 × ドル)

    カリウム(ドル)に0.658を掛けて、ナトリウム(円)の価値に合わせてから合計する。これが「換算(equivalent)」の正体です。

    ② RH(相対湿度)100%は「ミストサウナ」だ!

    促進膨張試験(JCI-DD2法)の条件にある**「40℃・RH100%」**。

    RH(Relative Humidity)とは相対湿度のこと。では100%とはどんな状態でしょうか?

    これは**「ミストサウナ」や「濃い霧の中」と同じです。💧

    空気中の水分が限界まで満タンで、これ以上水を含めない飽和状態。コンクリートを絶対に乾燥させず、常に水分を供給し続ける「ASRにとっての天国(最悪の環境)」**を作り出しているのです。

    5. まとめ:ASR診断のチェックリスト

    ひび割れ形状:網目状(拘束時は軸方向)、PC部材は定着部の複雑な割れに注意

    付着物:白色〜半透明ゲル(湿潤時は変色・粘性あり)

    発生環境:水掛かり、融雪剤・海塩などの外部アルカリ供給

    確定診断:薄片観察(偏光顕微鏡)、SEM-EDS(成分分析)

    進行性評価:促進膨張試験(JCI-DD2)での「伸び増分」確認

    対策の鉄則:進行性ありなら「止水・防水」が最優先


    📢 次回予告:

    ひび割れ・中性化・塩害・ASRに続き、次は寒冷地の天敵。
    「【診断士-05】凍害のメカニズムとポップアウト|空気量と気泡間隔係数の秘密」を解説します。なぜ「空気」が入っていると凍らないのか?その謎に迫ります。