【診断士-06】🔥疲労・化学的侵食・火害の診断ポイント ――床版の「押し抜き」と火災後の「受熱温度」推定――

【第Ⅱ部】コンクリート診断士


💡これまで扱った「中性化」「塩害」「ASR」は、どこでも起こりうる普遍的な劣化でした。

一方、今回解説する**「疲労」「化学的侵食」「火害」**は、発生環境が限定的ですが、他にはない際立った特徴を持っています。

試験では**「構造物の用途」と「劣化原因」がセットで問われやすい**のが特徴です。

  • 例)道路橋の床版 \(\rightarrow\) 疲労
  • 例)下水道 \(\rightarrow\) 生物化学的侵食

本稿では、診断の決め手となる**「キーワード」と、そこに至る「メカニズム」、そして「最終的な破壊形態」**に絞って解説します。


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1. 疲労(Fatigue):道路橋 RC 床版の SOS

【定義と対象】

一度では壊れないレベルの荷重が多数回繰り返され、損傷が蓄積して破壊に至る現象です。

試験では、ほぼ**「RC 床版(道路橋のコンクリート床)」**に関する出題が中心です。

【進行メカニズム(4段階)】

現場点検の実態に合わせ、劣化プロセスは以下の 4 段階で整理されます。

段階状態・現象
潜伏期
(初期)
・走行荷重により、床版下面に曲げひび割れが散発します。
・橋軸直角方向(主鉄筋と直交)や橋軸方向に生じますが、まだ格子状にはなっていません。
進展期・直交するひび割れが増えて交差し、**「格子状(グリッド状)」に発達します。
・格子のサイズは、概ね床版厚相当(例:200〜300mm程度)**となる傾向があります。
・白華(エフロレッセンス)や錆汁などの随伴現象が局所的に見られ始めます。
加速期・ひび割れ同士が連結してブロック化します。
・貫通ひび割れによる漏水・遊離石灰が顕在化し、角落ちが連続します。
・床版上面では**「土砂化(砂状化)」**によるペースト欠損・骨材露出が進み、せん断耐力が著しく低下します。
劣化期
(破壊期)
・最終的にタイヤ(輪荷重)直下で斜めひび割れが進展し、コーン状に抜け落ちる**「押し抜きせん断破壊」**に至ります。
・走行安全や第三者被害のリスクが高く、床版の取替(更新)や抜本的な補強が必要な段階です。

出典:コンクリート工学会 コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針2022;p105 

⚠️ 実務のポイント:進行の例外パターン

必ずしもきれいな「格子状」を経て破壊するとは限りません。
格子状ひび割れが形成されないまま局所的に貫通し、短期間で抜け落ちに至るケースも確認されています。
そのため、「格子の有無」だけでなく、**「漏水・遊離石灰の有無」**が進行リスクの重要な指標となります。

🔍【診断キーワード】

  • 格子状ひび割れ:床版下面に特徴的に現れるSOSサイン。
  • 白華(エフロレッセンス):遊離石灰が水に溶けて移動し、表面で炭酸化して白く析出する。(\(CO_2と反応してCaCO_3\)として析出)
  • 土砂化:コンクリートのモルタル成分が失われ、砂利道のようにボロボロになる。
  • 錆汁(さびじる):ひび割れ等からの水分・酸素・塩分の浸入により鉄筋が腐食し、赤褐色の流出物が生じる。

📝 試験対策:Miner(マイナー)の累積損傷則

\(\displaystyle \sum \frac{n_i}{N_i} \ge 1\)

  • 意味:各荷重レベルの繰返し回数比(\(n_i / N_i\))の総和が1以上になれば破壊に至る(1未満なら安全)。
  • \(n_i\):実際にその荷重を受けた回数
  • \(N_i\):その荷重レベルでの破壊寿命回数

2. 化学的侵食(Chemical Attack):酸と硫酸塩

(1)酸による侵食(溶解型)

  • 機構:\(Ca(OH)_2\) 等の水和物が酸と反応して溶出し、さらにC-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)も分解され、組織が脆化・スカスカになる。
  • 特徴:表面が軟化・脆化し、進行すると骨材が露出する。
  • 時系列:表面軟化\(\rightarrow\) 骨材露出\(\rightarrow\) 断面欠損\(\rightarrow\) 鉄筋腐食
  • 発生場所:化学工場、強酸性泉の温泉地、食品工場(乳酸・酢酸など)。

(2)硫酸塩による侵食(膨張型)

  • 機構:外部からの硫酸イオン(\(SO_4^{2-}\))がセメント成分と反応し、エトリンガイト(AFt)や二水石膏(\(CaSO_4 \cdot 2H_2O\))を生成する。これらが生成時に**「体積膨張」**することでひび割れを起こす。
    • ※内部の硫酸塩に起因する**DEF(遅延エトリンガイト生成)**という現象もあります。
  • 発生場所:硫酸塩を含む土壌、海水、温泉地。

(3)下水道の生物化学的腐食(※最頻出)

下水管の上部(気相部)が溶ける現象です。プロセスが特殊なためよく出題されます。

  1. プロセス:
    1. 汚水中の有機物から**硫化水素\(H_2S\)**ガスが発生。
    2. 気相部の**「硫黄酸化細菌」**が、\(H_2S\)を酸化。
    3. 硫酸(\(H_2SO_4\))を生成。
    4. 冠部(管頂部)のコンクリートが溶解する。
  2. 特徴:管頂部(気相部)が選択的に侵食され、流水部は比較的健全であることが多い。
  3. 注意:気相部の結露水は極端な低pH(強酸性)となり、進行を加速させます。

出典コンクリート工学会 コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針2022;p93 


3. 火害(Fire Damage):受熱温度の推定

火災に遭ったコンクリートは、高温により脱水・分解・組織変化が起こり、強度が低下します。

診断士は、受熱温度の推定と**「再使用可否の判断」**を行います。

【色調と状態の目安(暗記必須)】

受熱温度によって、コンクリートの色が変わります(※骨材の種類により差があるため注意)。

温度域色調状態・特徴
〜300℃すすけ(黒)表面の付着物が燃えた状態。強度低下は比較的小さい。
300〜600℃淡桃色(ピンク)骨材中の鉄分酸化による変色。
\(Ca(OH)_2\) の分解域へ入り、アルカリ性の喪失(中性化の進行)が急速。
600〜900℃灰白色著しい強度低下。再使用は困難。
900℃〜陶器状(クリーム色)溶融に近い変質。

【爆裂(爆裂剥落)と対策】

  • 現象:急激な加熱で内部水分が水蒸気化し、閉じ込められた圧力で表面が剥落する現象。高強度コンクリートは組織が緻密なため、蒸気が逃げにくく爆裂しやすい傾向があります。
  • 対策:ポリプロピレン(PP)繊維等の混入が、爆裂抑制に有効とされます。

【診断方法のステップ】

受熱温度推定 \(\rightarrow\) 再使用可否判断 の流れで行います。

  • 現場:反発度法(リバウンドハンマー)、超音波伝播速度、外観・色調観察。
  • 試験室:コア圧縮試験、熱分析(TG–DTA)、X 線回折(XRD)、薄片観察。
    • ※中性化深度(フェノールフタレイン法の非発色域)の測定も、受熱範囲(\(Ca(OH)_2\)分解域)を知る有力な手がかりとなります。

まとめ:用途・環境特有の劣化診断チェック

劣化原因進行・キーワード最終形態
疲労
(道路橋 RC 床版)
・潜伏期 \(\rightarrow\) 進展期(格子状)\(\rightarrow\) 加速期(土砂化・漏水)
・キーワード:格子状ひび割れ/土砂化/漏水・遊離石灰
押し抜きせん断破壊
酸侵食
(温泉・工場)
・キーワード:表面軟化/骨材露出断面欠損・鉄筋腐食
下水道侵食
(生物化学)
・キーワード:\(H_2S\)/硫黄酸化細菌/硫酸管頂部の選択的侵食・崩落
火害・キーワード:ピンク色(300〜600℃)/爆裂/深層中性化強度低下と再使用可否判断

📢 次回予告:

メカニズム編はここまでです。

次回から**「診断士-07 調査・試験方法編」**へ突入します。

まずは、コンクリートを壊さずに中身を見る**「非破壊検査(電磁波レーダ・電磁誘導法)」**について。

  • 「何が見えるのか?(鉄筋位置・かぶり・限界)」
  • 「どうやって見るのか?(誘電率の差 vs 渦電流)」
  • 「どう使い分けるのか?(現場での併用)」

これらを、鉄筋探査の仕組みから図解で分かりやすく解説します。


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