―コア採取・中性化深さ・塩化物イオン量測定
前回の非破壊検査は「傷つけずに調べられる」メリットがある一方、精度には限界があります。
そこで用いるのが、コンクリートを一部だけ削る・くり抜く**「微破壊試験」**です。
本稿では、実務で最重要の「コア採取」のルールと、試験室で行う「化学分析」の手順を整理します。
1. コア採取(Core Sampling)
📝 概要
専用機(コアドリル)で直径 50~100 mm 程度の円柱状サンプル(コア供試体)をくり抜きます。実務では \(\phi 75 \sim 100 \text{mm}\) が一般的です。(JIS A 1107)
🔍 コアで多角的に評価できる項目
1本のコアで以下をまとめて評価できるため、“診断の王様”とも呼ばれます。
- 圧縮強度
- 中性化深さ
- 塩化物イオン量(深さ分布)
- 配合推定
- ASR(残存膨張試験、偏光顕微鏡観察など)
⚠️ 強度試験の補正係数(\(h/d\) 補正)
標準供試体は \(h/d=2.0\)(高さ:直径 = 2:1)ですが、現場コアは鉄筋を避けるため短くなりがちです(\(h/d < 2.0\))。
円柱は**「短いほど拘束の影響で見かけの圧縮強度が高く出る」**ため、標準(\(h/d=2.0\))に換算するには 1.0未満の係数 で減じる必要があります。
| h/d (高さ/直径) | 補正係数(目安) | 判定 |
| 2.00 | 1.00 | 補正なし(標準) |
| 1.50 | 約 0.96 | 少し減じる |
| 1.00 | 約 0.87 | 大きく減じる |
| 0.50 | 約 0.68 | 参考値扱い |
- 注記:係数は規格の版年度・採用表により異なるため最新版に従ってください。
📝 試験前の取り扱い
- 端面処理: キャッピング(硫黄/高強度モルタル)または研磨で端面の平行度・平滑度を確保。
- 含水状態の統一: 飽水/乾燥の指示に従う(含水条件は強度値に影響します)。
- 復旧: 採取孔は充填材(無収縮モルタル等)で確実に埋戻し、耐力・耐久への影響を最小化します。
📏 採取位置と寸法のルール
鉄筋探査は必須: 鉄筋の切断は厳禁です。
- コア径のルール: **「粗骨材最大寸法の3倍以上」**が原則(例:最大寸法 20 mm → 径 60 mm 以上)。
- 理由: 骨材の入り方に左右されず、部材内部の平均的性質を反映させるため。
- 代表性確保: 部材端部や打継ぎ近傍を避けつつ、必要に応じて複数位置で採取します。
2. 中性化深さの測定(フェノールフタレイン法)
規格:JIS A 1152
🧪 手順
- 断面の粉じんを清掃する。
- 直ちに 1%フェノールフタレインエタノール溶液を噴霧する。
- 変色の境界をノギスで測定する。
- 注記:時間が経つと空気中の \(CO_2\) で断面自体が中性化してしまうため「直ちに」が鉄則です。
👀 読み方(判定)
- 周方向平均: 等間隔で複数点を測定し平均値を求める(粗骨材部分は染まらないため除外)。
- 色の判定:
- 赤紫 = アルカリ性(健全)
- 無色 = 中性化が進んだ領域(腐食リスクあり)
3. 塩化物イオン量の測定(化学分析)
🎯 目的
コンクリート中の塩化物イオン(\(Cl^-\))含有量を評価します。JIS A 1154(硬化コンクリート中の塩化物イオン試験方法)やJCI規準を用います。
📊 深さプロファイル
表面から内部に向かって 1~2 cm 厚で輪切り(スライス)にし、各層の塩分量を測定します。
「表層高・内部低(飛来塩分)」か「全層ほぼ均一高(初期混入)」かの診断に有効です。
⚗️ 総量(全塩化物イオン)と水溶性(可溶性)の使い分け
| 名称 | 抽出溶媒 | 意味・用途 |
| 全塩化物イオン (Total) | 硝酸 (煮沸) | ・骨材内部の塩分も含む総量。 ・規格・仕様の許容値比較に用いる。 |
| 水溶性塩化物イオン (Soluble) | 温水 (50℃) | ・水に溶け出す成分。 ・実際の腐食リスク評価に用いる。 |
- 単位の使い分け:
- 総量は \(kg/m^3\)
- 腐食リスク評価はセメント質量比(\(Cl^-/C, \%\))
- 必要に応じて換算式を併記(例:\(Cl^-/C(\%) = [Cl^-(kg/m^3) / \text{単位セメント量}(kg/m^3)] \times 100\))
4. 配合推定(Mix Proportion Analysis)
📝 概要
設計図書が残っていない場合、硬化コンクリートを化学分解し、当時の配合(単位セメント量・水セメント比など)を推定します。
⚠️ 原理と限界
- 試料を粉砕・溶解し、\(CaO\)(カルシウム)や \(SiO_2\)(シリカ)などの量を測定。セメント特有の成分比から元のセメント量を逆算します。
- 注意: 石灰岩骨材(主成分 \(CaCO_3\)) 使用時は、骨材由来のカルシウムが混入し、セメント由来と区別できず誤差が増大します。
✅ まとめ(微破壊試験チェックリスト)
- 圧縮強度: \(h/d\) 補正(短いほど強く出るため係数 < 1.0)、径は骨材の3倍以上。
- 中性化深さ: 断面清掃後に「直ちに」フェノールフタレイン噴霧。無色は pH 約10未満(腐食リスク領域)。
- 塩化物イオン量: 硝酸煮沸=全塩分(総量規制の比較)、温水抽出=水溶性(腐食リスク評価)。
- 配合推定: 便利だが、骨材の種類(石灰岩など)で精度低下あり。
🔜 次回予告
診断が終われば、次は対策です。
次回は**「【診断士-10】補修工法の選定フロー|注入・充填・断面修復の使い分け」**を解説。
0.2 mmのひび割れには注入か被覆か、鉄筋裏までハツる断面修復の必須条件とは何か。症状に応じた適切な治療法の選び方を整理します。
📚 確認クイズ(全5問)
Q1. コア径は「粗骨材の最大寸法の3倍以上」が原則である。
👉 ○
(解説:部材内部の平均的性質を反映させ、骨材の入り方によるばらつきを避けるため)
Q2. $h/d$ が 1.0 の太短いコアほど、見かけの圧縮強度は低く出るため、補正係数は 1.0 より大きくする。
👉 ×
(解説:短いほど拘束の影響で高く出る。標準へ換算するため 1.0 未満の係数(例:約 0.87)で減じる)
Q3. 中性化深さの測定は、断面清掃後に直ちにフェノールフタレイン溶液を噴霧する。
👉 ○
(解説:時間経過で断面自体が空気中の $CO_2$ で中性化してしまうため、遅滞なく行う)
Q4. フェノールフタレインは pH 8.3~10.0 付近で無色から赤紫に変色する指示薬である。
👉 ○
(解説:無色=中性(pH 7)ではなく、pH が約10を切って不動態被膜が壊れる領域に入ることを示す)
Q5. 塩化物イオンの全塩分は硝酸煮沸抽出、水溶性塩分は温水抽出で評価し、目的に応じて単位を使い分ける。
👉 ○
(解説:全塩分は総量規制との比較、水溶性は腐食リスク評価に用いる)

