【診断士-09】微破壊試験と化学分析

【第Ⅱ部】コンクリート診断士

―コア採取・中性化深さ・塩化物イオン量測定

前回の非破壊検査は「傷つけずに調べられる」メリットがある一方、精度には限界があります。

そこで用いるのが、コンクリートを一部だけ削る・くり抜く**「微破壊試験」**です。

本稿では、実務で最重要の「コア採取」のルールと、試験室で行う「化学分析」の手順を整理します。


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1. コア採取(Core Sampling)

📝 概要

専用機(コアドリル)で直径 50~100 mm 程度の円柱状サンプル(コア供試体)をくり抜きます。実務では \(\phi 75 \sim 100 \text{mm}\) が一般的です。(JIS A 1107)

🔍 コアで多角的に評価できる項目

1本のコアで以下をまとめて評価できるため、“診断の王様”とも呼ばれます。

  • 圧縮強度
  • 中性化深さ
  • 塩化物イオン量(深さ分布)
  • 配合推定
  • ASR(残存膨張試験、偏光顕微鏡観察など)

⚠️ 強度試験の補正係数(\(h/d\) 補正)

標準供試体は \(h/d=2.0\)(高さ:直径 = 2:1)ですが、現場コアは鉄筋を避けるため短くなりがちです(\(h/d < 2.0\))。

円柱は**「短いほど拘束の影響で見かけの圧縮強度が高く出る」**ため、標準(\(h/d=2.0\))に換算するには 1.0未満の係数 で減じる必要があります。

h/d (高さ/直径)補正係数(目安)判定
2.001.00補正なし(標準)
1.50約 0.96少し減じる
1.00約 0.87大きく減じる
0.50約 0.68参考値扱い
  • 注記:係数は規格の版年度・採用表により異なるため最新版に従ってください。

📝 試験前の取り扱い

  • 端面処理: キャッピング(硫黄/高強度モルタル)または研磨で端面の平行度・平滑度を確保。
  • 含水状態の統一: 飽水/乾燥の指示に従う(含水条件は強度値に影響します)。
  • 復旧: 採取孔は充填材(無収縮モルタル等)で確実に埋戻し、耐力・耐久への影響を最小化します。

📏 採取位置と寸法のルール

鉄筋探査は必須: 鉄筋の切断は厳禁です。

  • コア径のルール: **「粗骨材最大寸法の3倍以上」**が原則(例:最大寸法 20 mm → 径 60 mm 以上)。
    • 理由: 骨材の入り方に左右されず、部材内部の平均的性質を反映させるため。
  • 代表性確保: 部材端部や打継ぎ近傍を避けつつ、必要に応じて複数位置で採取します。

2. 中性化深さの測定(フェノールフタレイン法)

規格:JIS A 1152

🧪 手順

  1. 断面の粉じんを清掃する。
  2. 直ちに 1%フェノールフタレインエタノール溶液を噴霧する。
  3. 変色の境界をノギスで測定する。
    • 注記:時間が経つと空気中の \(CO_2\) で断面自体が中性化してしまうため「直ちに」が鉄則です。

👀 読み方(判定)

  • 周方向平均: 等間隔で複数点を測定し平均値を求める(粗骨材部分は染まらないため除外)。
  • 色の判定:
    • 赤紫 = アルカリ性(健全)
    • 無色 = 中性化が進んだ領域(腐食リスクあり)

💡 補足

指示薬の変色域はおおむね pH 8.3~10.0 です。無色は「中性(pH 7)」を意味するのではなく、**「pHが約10を下回り不動態被膜が破壊され得る領域に入った」**ことを示します。


3. 塩化物イオン量の測定(化学分析)

🎯 目的

コンクリート中の塩化物イオン(\(Cl^-\))含有量を評価します。JIS A 1154(硬化コンクリート中の塩化物イオン試験方法)やJCI規準を用います。

📊 深さプロファイル

表面から内部に向かって 1~2 cm 厚で輪切り(スライス)にし、各層の塩分量を測定します。

「表層高・内部低(飛来塩分)」か「全層ほぼ均一高(初期混入)」かの診断に有効です。

⚗️ 総量(全塩化物イオン)と水溶性(可溶性)の使い分け

名称抽出溶媒意味・用途
全塩化物イオン
(Total)
硝酸
(煮沸)
・骨材内部の塩分も含む総量
・規格・仕様の許容値比較に用いる。
水溶性塩化物イオン
(Soluble)
温水
(50℃)
・水に溶け出す成分。
実際の腐食リスク評価に用いる。
  • 単位の使い分け:
    • 総量は \(kg/m^3\)
    • 腐食リスク評価はセメント質量比(\(Cl^-/C, \%\))
    • 必要に応じて換算式を併記(例:\(Cl^-/C(\%) = [Cl^-(kg/m^3) / \text{単位セメント量}(kg/m^3)] \times 100\))

4. 配合推定(Mix Proportion Analysis)

📝 概要

設計図書が残っていない場合、硬化コンクリートを化学分解し、当時の配合(単位セメント量・水セメント比など)を推定します。

⚠️ 原理と限界

  • 試料を粉砕・溶解し、\(CaO\)(カルシウム)や \(SiO_2\)(シリカ)などの量を測定。セメント特有の成分比から元のセメント量を逆算します。
  • 注意: 石灰岩骨材(主成分 \(CaCO_3\)) 使用時は、骨材由来のカルシウムが混入し、セメント由来と区別できず誤差が増大します。

✅ まとめ(微破壊試験チェックリスト)

  1. 圧縮強度: \(h/d\) 補正(短いほど強く出るため係数 < 1.0)、径は骨材の3倍以上。
  2. 中性化深さ: 断面清掃後に「直ちに」フェノールフタレイン噴霧。無色は pH 約10未満(腐食リスク領域)。
  3. 塩化物イオン量: 硝酸煮沸=全塩分(総量規制の比較)、温水抽出=水溶性(腐食リスク評価)。
  4. 配合推定: 便利だが、骨材の種類(石灰岩など)で精度低下あり。

🔜 次回予告

診断が終われば、次は対策です。

次回は**「【診断士-10】補修工法の選定フロー|注入・充填・断面修復の使い分け」**を解説。

0.2 mmのひび割れには注入か被覆か、鉄筋裏までハツる断面修復の必須条件とは何か。症状に応じた適切な治療法の選び方を整理します。


📚 確認クイズ(全5問)

Q1. コア径は「粗骨材の最大寸法の3倍以上」が原則である。

👉 ○

(解説:部材内部の平均的性質を反映させ、骨材の入り方によるばらつきを避けるため)

Q2. $h/d$ が 1.0 の太短いコアほど、見かけの圧縮強度は低く出るため、補正係数は 1.0 より大きくする。

👉 ×

(解説:短いほど拘束の影響で高く出る。標準へ換算するため 1.0 未満の係数(例:約 0.87)で減じる)

Q3. 中性化深さの測定は、断面清掃後に直ちにフェノールフタレイン溶液を噴霧する。

👉 ○

(解説:時間経過で断面自体が空気中の $CO_2$ で中性化してしまうため、遅滞なく行う)

Q4. フェノールフタレインは pH 8.3~10.0 付近で無色から赤紫に変色する指示薬である。

👉 ○

(解説:無色=中性(pH 7)ではなく、pH が約10を切って不動態被膜が壊れる領域に入ることを示す)

Q5. 塩化物イオンの全塩分は硝酸煮沸抽出、水溶性塩分は温水抽出で評価し、目的に応じて単位を使い分ける。

👉 ○

(解説:全塩分は総量規制との比較、水溶性は腐食リスク評価に用いる)